イギリスのマンチェスター大学に留学されていたK.Mさんの体験談です。

 

マンチェスター大学

何から書き始めればいいのか。初めての一人暮らしも、初めての海外長期滞在も経験した、特別思い入れのある地である。交換留学は高校時代からの憧れで、留学が決まった時は興奮して教室から飛び出したほどだった。この体験記では、留学を目指す京大生と、今留学中の京大生に向けてのアドバイスを込めて書こうと思う。

写真

O my prophetic soul! – Hamlet: Act 1, Scene 5

交換留学に行くと、私を含め、少なからず病む人が多い。華やかな留学生活を予想していたのに、実際は授業などで英語能力の低さを痛感させられながら、慣れない文化の中に身を置いて、わからない話に相槌を打つだけの日々が留学では続くからである。そして、時には想定もしていなかったような出来事が起き、心が折れてしまうことがある。しかし、留学をする意義はそこにあると思う。私はいつも留学に関する講演を頼まれたときは、留学には想定内の問題と想定外の問題が存在し、想定外の問題を乗り切るときこそ留学中でもっとも力の付くときであり、留学の醍醐味であると話すようにしている。私の場合、イギリスに到着したのが深夜だったため、マンチェスター大学の寮に入れず、雪が降る夜のマンチェスターの街を助けを求めて彷徨ったのが最も想定外の出来事だった。この出来事のおかげで、見知らぬ人に慣れない言葉で話しかける勇気を覚え、人に舌打ちを食らわせられることへの耐性を得た。

 

英国で石を投げた話と石を投げられた話

投げた話

石を投げた時、投げられた石が数秒後到着することになるある地点は、投げられた瞬間に100%決定しているのか、到着までの様々な要素に左右され偶然的に決まるのか。私がまだ幼かった頃、ふと考えたことがあるのを今も覚えている。

留学時代の一番の親友との出会いは、寮の部屋でのネット障害について大学寮の受付に文句を言いに行った時、私の後ろに並んだ男子学生に、私が文句を言っていた10分ほどの時間、待たせたことを詫びるため話しかけたのがきっかけだった。

話をしてみると、彼はシンガポールから私と同じ交換留学生として寮に到着したばかりで、受付で鍵をもらうために私の後ろに並んだとのことだった。当時私にはまだ留学先で一人も友達がおらず、人と話すことに飢えていたので、普段はコミュ症の私も積極的に話すことが出来た。偶然にも、彼の住む部屋は、数あるマンチェスター大学の寮の中でも私と同じ寮の同じ建物の中であることがわかったため、お互い親近感がわき、話が盛り上がった。

その日以来、彼と毎朝朝ごはんを食べに出かけるのが日課となり、結果、インターネット障害のおかげで留学生活初めての友達を作るに至った。

 

投げられた話

Liverpoolで突然悪ガキ二人に小石を投げられた。

 

普段の生活

留学開始から1か月半もたてば、シンガポール人の友達の他に、3人ほどのアメリカ人とも親友になり、落ち着いた生活を送るようになっていた。友達らと一緒に映画を見ながらピザを食べたことも、ジャズのコンサートに行ったことも、食べ放題でひたすら食べ続けたのもいい思い出である。チェコ・オーストリア・ドイツ・イタリアを2週間かけてバックパック一つで周るヨーロッパ旅行にも行った。だが、このような、絵にかいたような留学生活は留学生活全体のほんの一部である。留学の70%の時間は勉強の気だるさと授業以外何もイベントが無い退屈さで占められている。これは留学経験がまだ無い方にとっては意外なことかもしれないが、留学経験者の多くは、常に異国の文化に触れてわくわくしているわけではなく、日本で生活しているときとそれほど変わらない生活を普段は送っている。このことに関しても、留学に来ているのに平凡な毎日を送ってもいいのだろうかと思い悩む方も多いようだ。しかし、生活が平凡に感じるということは、留学先での生活にうまく適合できたということで、localと同じようにスムーズな生活を送れているというのは留学の本来の一つの大きな目標を達成したと言えると思う。

私は、普段の生活が退屈に思えるくらい余裕が出てからは、ある程度活発に動くように心がけ、日本では体験できないなぁと思える体験もいくつかするようになった。例えば、隣町のリーズ大学の教授と将棋友達になり、パブで飲みながら将棋を打ったり、試験勉強の辛さを紛らわすために、コンビニにポテチとコーラを買いに行った時に、レジをしていた店員と友達になり、家にWinning eleven をしに行ったこともあった。(この店員はその後日本人と結婚し、今は大阪に住んでいる。もちろん今でも交流がある。)  また、マンチェスター大学の天文同好会に在籍した。偶然にも、当時新しく発足した同好会だったらしく、私は同好会の第一期目のメンバーの1人になった。天文同好会の天文観測会でみた土星の美しさは忘れられず、この時の経験から天体観測が趣味になり、帰国後、星空宇宙天文検定2級を取得するまでになった。

 

 

 

後悔してること/してよかったこと

留学を終えた今、振り返ってみてしてよかったこと、しておけばよかったことを箇条書きで紹介する。これから留学を目指す京大生には是非参考にしてもらいたい。

・もう少し旅行すればよかった

交換留学は、色々な体験をすること自体が勉強。経済状況と時間が許すなら、ぜひ旅行にいくといいと思う。私は友達に誘ってもらい、上述したように、長期休暇を利用して2週間のヨーロッパ旅行に行った。当時は、実はまったく気が進まなかったのだが、今はとてもいい思い出として残っている。もっと前もって、綿密に旅行計画を練っておけば、さらに多くの場所を巡れたのではないかと少し後悔している。

 

・単位互換はあまり気にせず、取りたい授業を取ればよかった

私は京大との単位互換が出来る授業ばかり取得したが、結局帰国後はかなりの余裕をもって卒業条件単位数を取ることが出来たので、留学先では単位互換の可能不可能に縛られず、興味のある授業を色々取ると新たなアイデアを得ることが出来るかも。

 

用意してよかったもの

・KCJS

KCJSは同志社大学で京都大学と同志社大学の学生がアメリカからの学生と一緒に講義を受けるというプログラム。1講義に対し日本人は2~3人、アメリカ人は15人程度で講義を受ける。KCJSの他に、SJCというプログラムも用意されている。詳しくは京都大学国際交流課まで。

 

・料理

友達らと作った料理を持ち寄って、寮の共有ルームで一緒に食べるということがよくあった。この時間が、留学中で一番楽しかった時間かもしれない。野菜炒めとパスタが得意でよかった。

 

 

 

これから飛んでいくみなさんへ

学部を卒業した立場として、留学について思うこと、これから留学をする人へのアドバイスを2つほど書こうと思う。

・留学を学生時代の最大のイベントとしてはいけない。

便利な空路が発達した現代社会では、留学などはお金さえ払えば誰でもできる。もう留学をすることがステータスとなる時代はとっくに終わっており、今は留学の価値は留学自体ではなく、京大での生活から得たものを留学でどのように発展させ、それを帰国後どのように活かすかによりを決定される時代だと思う。留学前や留学後の京大での生活も、留学中の生活と等しく大切な大学生生活の一環。大切なイベントは留学中にのみ発生するものではないはず。留学はグリコに付いているおまけ。一粒で300メートル走れる魅力は、京大での学生生活を大切にすることで構築されるものだと思う。

 

・留学の主な目的を外国語(英語)の習得にしてはいけない。

外国語、特に英語の習得は非常に大切だが、こだわり過ぎてもいけないと思う。スムーズに英語で会話が出来るようになった今だから言えることだが、極論、英語が話せるかどうかはバックグラウンドの違いだけ。英語が話せても特に自慢できることでも無い。大学での専門性や優れた知識こそが国際社会で自分の立ち位置を示すものであって、英語を話せるだけでは何の役にも立たない。(英語が全く話せないのも問題ではあるけれど。)あと、『いつまでたっても英語力が上がらない!』と、これまた病む人が良くいるが、英語は自分では気が付かないうちに成長しているものなので、英語力の向上に常に神経を注いでいると疲れてしまう。英語に関しては、気楽に構えるのが一番。

(了)

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